使える経済書100冊

使える経済書100冊 / 池田信夫

使える経済書100冊 『資本論』から『ブラック・スワン』まで (生活人新書)

使える経済書100冊 『資本論』から『ブラック・スワン』まで (生活人新書)


著者はネットでは良く取り上げられる有名経済学者の池田信夫。本書では池田信夫がWEB上でアップした書評がジャンル分けして紹介されています。全部かはわかりませんが多くがネット上で読めるので買ってまで読む必要があるか、とは思いますが、やはり書物という物体なので読みやすさは格段に上がっています。そのリーダビリティにどこまでお金を払えるかが購入の指標となるのではないでしょうか。


■最新の経済書が多め
題名にもあるとおり100冊分と厖大な書評が纏められています。
選別された紹介本は古典は僅かで、現代に即した本ばかりでどれも参考にならないといったことはありません。古典が既に無効化したというつもりは毛頭もありませんが、現実の具体的な事象とは接点がありません。一方で、最新の本は現実と接しているものの将来を見通すほどに視野が豊かではないという二律背反の関係にあります。このバランスの具合が上手で、現代の経済社会を洞察する上で参考になる本ばかりと思えました。


■ボリューム
本書の総ページ数が250ページ弱なので、一冊に割り当てられたページ数は2頁程度と非常に短いです。読む前にこの短さで何が語れるのか疑問にも思いましたが読んでみると意外と身が詰まっている印象を受けました。それは少ないページ数で何もかも語ろうとしない思い切りの良さによるものかもしれません。万遍なく語ろうとせず、一つピックアップして終わりという纏め方が書評を凝縮させていると思います。


■重視され過ぎな書評者
難点。池田信夫自身の意見が紹介本の説明よりも圧倒的に重視されていることが挙げられます。
全体として、各紹介本のうち池田信夫が興味ある部分を少しピックアップして彼の持論と結びつけて説明して終わり、という書評が非常に多いのですが、その持論の語りの割合が大きすぎます。2ページで各紹介本の満足な説明と、書評者ならではの特別な観点を取り入れるのは困難ではあるので、そうせざるを得なかったと私も考えます。しかし、ここまで紹介本自体が軽視されると少し困るとも思います。それぞれの本がどのような本であるのか丁寧な説明は一切ないのですから。この100冊を元に経済の勉強をするぞ、という完全な無知識の人には薦められません。


■本書が向いているひと
そういう意味で「書評者の偏った意見なんか興味ない。公平に使える経済書の説明をしろ」と考えている人にとっては本書は非常に不向きです。本書には教科書案内という性質はあまりないですから。
本書に最も向いている人は【池田信夫による】書評が読みたいという人だと思います。書評本が読みたいという人でもなく、経済本の読書案内を求めている人でもありません。【池田信夫】の知見を読みたいという人です。その次に向いている人は、書評者自身の意見を前面に出している書評本が好きな人かと思います。私がこのタイプです。ただ私にとっては少し書評者がアップされすぎていると思いましたが…。


■まとめ
少々、難点を多く書きすぎましたが決して悪い本ではありません。むしろ良書です。選別された本は素晴らしいものばかりですし、書評にもセンスがあると思いました。また経済書と謳っていながら社会、歴史、哲学の分野の本も取り上げるジャンルの幅もポイントだと思いました。クセがあるだけで書評本としてレベルが高いと感じました。上述した通りネット上でも読めますが、本書の想定読者とするビジネスマンは時間がないでしょうから電車の中でも読める本書は非常に向いていると思います。


■題名が合ってない
最後に一つ。
本書の題名に【使える】という言葉が入っていますが、これは不適切だと思います。【使える】という言葉を題名の先頭に持ってくるほどに即物的なHowto本は一切紹介されていないのですから。広い意味では確かに【使える】のでしょうが、題名から受ける印象とは異なっています。
本書の冒頭にある「世界経済や日本経済を考える上で参考になる本」という言葉の方が余程本書を表しています。ビジネスマンに広汎な教養的な知識を授けたいと思っていながら、ビジネスマンはビジネス書のような即物的なものを求めたがるというイメージに合わせた題名なのでしょう。苦肉の策だったのかもしれないですが、少々この名前はないなぁと思ったので書いておきます。


****下記リンクは紹介された100冊の本****
紹介された100冊の本