マネーの進化史

マネーの進化史 / ニーアル・ファーガソン

マネーの進化史

マネーの進化史


マネー。カネ。
現代において最も生活に密接した存在の一つです。現代社会ではマネーがなければ生活さえできませんし、マネーさえあれば幸せになれるという拝金主義も今では普及しきった感があります。そのマネーは一般人の生活だけには留まりません。経済活動の占める位置が時間とともに幅を拡げるにしたがい、戦争といった人間集団が行える最大の破壊活動さえにも多大な影響を及ぼすほどにもなりました。現在、マネーはそれほどに社会の重要な要素とまでなっています。


そのマネーは、古代から現代までに幾度も形を変えてきました。
近代まで世界中で使われ続けてきたマネーの象徴である金銀。現代にほど近い時代になってからは紙幣。今ではコンピュータの画面上で表示される数値がマネーの姿です。振り返って見ればマネーは時代の変遷とともに形を変えてきました。
変わったのはマネーの形、外見だけではありません。マネーに関わる金融制度も常に表裏一体に進化をし続けてきました。その金融制度は社会をあらゆる面から支えています。ローン、クレジットカード、国際為替、通貨などなど。例を挙げればきりがありません。
これらは全て一歩道を外せば国家を破滅へと導くほどの影響力を持った金融制度です。サブプライムローンの崩壊、アジア通貨危機ハイパーインフレによって壊滅したアルゼンチン、ドイツ。破滅の例もまたきりがないのです。


私たちに馴染み深く、恐るべき力を持っており、進化を続けて社会を支えるマネー。その多面性は本質を捉えさせにくくします。歴史とともに形も、役割も、力も変えてきたことも関係しているのでしょう。その摩訶不思議な存在であるマネーが文明の誕生以来どのように進化してきたのか、著者は追い続けます。明かされていくその進化の過程を眺めることによって私たちはマネーの本質の一端を見ることができるでしょう。


この壮大な試みを為そうとした本書はマネーにまつわるものを網羅しており、500ページにも及ぶ重厚さとなっています。信用制度、債券市場、株式市場、保険、不動産、金融市場。どれもマネーに絡む重要事項です。金融制度の黎明期である13世紀から、現代の金融危機サブプライムローンまで数百年に及ぶ歴史と、現代のグローバリズムを表わすかのように世界中を横断してマネーの進化を語るところに著者の力量の非凡さが伺えます。マネーに関わる要点は全て抑えておくと意気込んでいるのか情報量の密度と考察の精巧さは類い希なるほどに高度で、驚嘆してしまうでしょう。だからこそ金融の進化史を語るべく全てを包含しようとした本書は実に読み応えがあるものとなっています。
しかも、ただの教科書、学術書のように無味乾燥で難解なわけではありません。本書は、金融、金融史の門外漢である人たちに入門書として書かれています。そのおかげで全体的に難しくないのに精巧な学術さも持っており、またドラマチックな面白さを持っています。この学術性と平易さの見事なバランスによって、読者は金融リテラシーが付くだけでなく知的好奇心を満たせることができるという、実に興味深い仕上りとなっているのが本書なのです。


テーマ自体が興味深いものである上に、楽しめる教養書として誰もが読める内容となっている本書。名著として評価されるに値する本書は是非とも多くの人に読んでもらいたいと思います。