われはロボット

われはロボット / アイザック・アシモフ

ロボット三原則

ロボット三原則
第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また人間が危害を受けるのを何も手を下さずに黙視していてはならない。
第二条 ロボットは人間の命令に従わなくてはならない。ただし第一条に反する命令はこの限りではない。
第三条 ロボットは自らの存在を護(まも)らなくてはならない。ただし、それは第一条、第二条に違反しない場合に限る。

ロボット三原則、誰でもどこかで聞いたことがある言葉だと思います。
この上記三原則は、実は正当な学問的な工学の原則ではなく、『われはロボット』を著した小説家アイザック・アシモフが着想したSF的アイディアです。ロボットは絶対的に人間に隷従した存在であり、その原則から外れたロボットは許されない。なぜなら、そのような原則がなければ人間以上の力を持ったロボットは人間に反抗するのが道理であるから。よって、このような原則が必要である、というわけです。
アシモフといえば『ファウンデーション』シリーズに代表される古典作品で有名なSF作家ですが、私は氏の著作を一冊も読んだことがありません。些か古すぎるだろうと。ですが、人工知能というジャンルには興味があります。その原石としてのアイディアが詰め込まれているこの大先生の著作ならば読んでみるのも良いのではないか、と思い、手に取った次第です。


■短編集
本作品は短編集です。
各短編は主人公スーザン・キャルヴィンというロボット心理学者の回顧録としてそれぞれ繋がり合った物語となります。時代は2000年から2100年のあいだくらい。2010年現在ではある程度、もう完成していなければならないみたいです。
ロボット心理学者とはなんぞやと思うでしょう。各編に登場するロボットは全て人工知能を搭載しています。その思考ができるロボットに設定されている三原則を、多様な現実に適用して考え、各ロボットが逐次どのように思考するのかを分析する職業みたいなものでしょうか。
各編で起こるロボットの社会不適合の問題。その問題を解決できる専門家であるキャルヴィン。そんな物語が9つ合わさったのが本書というわけです。


■人間味豊かなロボット
人工知能を持ったロボットというと様々なタイプがあります。人間味の有無、自律行動の有無など、精神特性、行動特性が異なったものがあります。ですが、特にメジャーなのはドラえもん鉄腕アトムのように人間と同じ精神を持ったタイプでしょう。
本作品のロボットも人間と同じ精神を持ったタイプに近いです。少しだけ違うのは、ロボット三原則が厳格に適用されているために、ある種の行動、思考が制限されていることです。この点、制約があるために起こる問題が本作品のテーマでもあります。


■形式的なストーリー
例を挙げます。星間ワープができる宇宙船の建造の可能性という問いをロボットに考えさせたらロボットが壊れた話があります。
この話では、この星間ワープの際には搭乗員は絶対に一度死んで再生される、という設定です。ですが、人間が結果的に再生されるにせよ、ロボットは人間に危害を加えることは許されていません。ですから設問にたいして解答不能に陥り自壊するわけです。
ではどうやって解決させるか、というのが話の大筋です。この大筋は他の短編でも同様です。人間の要求と三原則が一致しないときどのように行動するか。これが共通して描かれているのですね。短編で【問題提示→問題解決→問題解説】という決まった枠組みを丁寧に当てはめているわけですから、当然のこととして全ての話が形式的に似ています。同じ形式に沿った物語を読むのが好きな人には勧めやすいのではないでしょうか。


■古風なロボット観
ところで、この人間に害を為す解答を禁じられたロボットが自壊したという考えは、意外の中の意外でした。
今の時代でいえば、問題を考えさせたら壊れるなんて考えないでしょう。コンピュータ的に考えてアプリが停止しただけでOSは停止しない、ましてやハードウェアは壊れるなんてありえないという発想をすると思います。
ソフトウェアの問題でハードウェアが壊れるのはそう簡単じゃない、みたいな考えが根底にあるのかもしれません。その点、アシモフ(やその時代の人々)はハードウェアとソフトウェアを分けずに考えてたのでしょうか。今一わからないのですが、時代の差というものを感じますね。


■感想
本作品は、予想外の飛び抜けた展開によって読者を驚嘆させ魅了するわけではありません。物語としてある種の制約がおかれた現実的な世界を仮定し、その合理的な展開で納得させ魅了する型の作品です。幻想的な雰囲気はありません。アクションや冒険譚のようでもありません。いわゆるリアリティに傾いています。
そういったことから、人工知能というアイディアに興味があり、その運用においての思考実験に興味があるなーという人にはお勧めできるのはないでしょうか。